人間と生活を共にするAIインターフェースの理想形を「バーチャルパートナー」と名付け、バーチャルパートナーとしてのキャラクター召喚装置「Gatebox」とAIオリジナルキャラクター「逢妻ヒカリ」を開発・販売するGatebox。代表取締役の武地実と、創業期にパートナーとして伴走したPRIMAL CAPITAL佐々木浩史が、出会いからプロダクトの具現化、LINEとのM&Aに至るまでを振り返る。
武地 佐々木さんと最初に会ったのって……2013年の「Startup Weekend」なので、もう9年前か。めっちゃ前ですね。
佐々木 渋谷のマークシティでしたね。そのとき武地さんは何歳でしたっけ?
武地 25でしたね。26歳で起業したんで。
佐々木 若い(笑)。
武地 当時はスマホアプリの会社に勤めていたんですが、すでに世の中にはいろいろなアプリが出ていたし、スマホではあまり自分が面白いと感じることができないなと思い始めていて。自分で新しいサービスをつくりたくなり、スタートアップの世界に興味をもったんです。
佐々木 出会った当時は「デザイナー」と名乗ってましたよね。
武地 そう、デザイナーとして参加してました。そこで参加者がいくつかのグループに分けられて、佐々木さんが僕のグループのメンターになった、と。
佐々木 そうそう、そこがファーストコンタクトでした。ただメンターといっても、とりあえず「やれるだけやりきろう」と話したぐらいで。懇親会でも「サービスつくりたいんだったらさっさと起業しちゃおうよ」という話をして、最初はそれぐらいのやり取りで終わりでしたよね。
武地 その後も別に連絡は取ってませんでしたね。そしたら同じ年の夏に、知り合いに誘われたテニスでばったり再会して。
佐々木 たまたまでしたね。そこでたしかiettyの小川(泰平)さんを紹介した気がします。バイトさせてもらえばいいんじゃないの、と。
武地 それでもう次の週からバイトを始めてるという。当時はニートしてましたから。
佐々木 そしたら同じ年の11月に僕が当時担当していた「インキュベイトキャンプ」にしれっと出場してたわけで。当時は議事録をつくるアプリを提案してたような。いまよりもだいぶ手堅いプロダクトですよね。あっちの方がビジネスにしやすかったんじゃない?(笑)
武地 でも、あのまま議事録アプリをやってても絶対続かなかったと思いますよ。頑張っても1〜2年が限界です(笑)。
佐々木 書類選考を通過して、面接も終えたころですよね。武地さんが「光る鳥」を出してきたのは。
武地 「ウィンクル」ですね。スマホと連動する鳥型アクセサリーで、お互いの居場所や方角を感知して光るというプロダクトでした。
佐々木 面接の後に「佐々木さん、実はこういう隠し玉がありまして。こっちで出たいんですけど」と(笑)。あれはどうやってつくったんですか?
武地 インキュベイトキャンプの前に、とあるハッカソンに参加していたんですが、そこにハードウェアをつくれる人がいたんですよ。ハードを実際につくれる人と初めて出会って、「うわ、ハードウェアおもしろい!」って思ったんですね。スマホアプリだけだとなかなか面白いものができそうにない、でもハードウェアを組み合わせたら新しい体験がつくれるんじゃないか、と。そのままハッカソンも優勝したんですが、審査員のおじさんたちに評価されたところで別に嬉しくないなと(笑)。もうちょっと世の中の評価が知りたいなと思ってクラウドファンディングに出してみたら、いきなり60万円集まったという。
佐々木 えっ、それってキャンプより前なんですか!?
武地 だいたい同じぐらいのタイミングですかね。この“鳥”でどこまで行けるか見てみたかったので、インキュベートキャンプにも出した感じです。
佐々木 僕もそこで初めて見たので「え、これでいけるの?」と。だけど武地さんは「いやIoT来ると思います」と言うから、IoT枠でとりあえず放り込んでみたんだよね。結局僕とチームを組んで一泊二日がんばって考えてプレゼンして――。
武地 最下位を取った、と。
佐々木 2日連続で最下位。もう圧倒的最下位だった。
武地 ぶっちぎりの最下位で、逆に楽しかったですね。鳥が光ることで地球上のどこにいてもお互いの居場所や方角がわかる、遠距離恋愛の恋人同士のペアグッズというコンセプトでハッカソンは優勝したんですが、実際に起業してプロダクトに落とし込もうとすると「遠距離恋愛カップルだけだと、さすがに市場狭すぎるわ」と(笑)。
佐々木 気づくのが遅い(笑)。
武地 いや、最初から気づいてはいたんですよ。儲けるためではなくこのプロダクトをつくりたくて起業したわけで、キャンプの結果はどっちでもよかったんです。それにいまのGateboxだって、コンペでは絶対1位をとれないプロダクトだと思います。
佐々木 全員からまんべんなく7〜8点をもらって1位をとるプロダクトと、2点つける人と10点つける人が大きく割れて2位、3位ってプロダクトがあるとすると、Gateboxは絶対後者ですよね。でも「割れる」方が僕は絶対いいと思う。
佐々木 その後はまた半年ぐらい空いて、2014年5月のIVS(Infinity Ventures Summit)で再開しましたね。その間は全然連絡取ってなかった気がします。起業してABBALabから出資受けてたのも知りませんでしたし。
武地 僕は何がなんでもウィンクルだけはローンチしたくて、あの鳥を世に出すためだけに起業したんですよ。だからABBALAbからの出資を受けられたものの、事業としてその後うまくいくかは正直自信がなくて。そんなタイミングで佐々木さんと再会して「なにか困ったことがあったら相談して」って言ってもらえたんです。東京戻ってからも案の定うまくいかなくて、「会社がつぶれる、やべえ」と思って佐々木さんに会いに行きました。
佐々木 そこからがっつり話すようになりましたね。
武地 鳥がうまくいかなかったから、次のプロダクトを考えなきゃと思って、色んなアイデアをもっていってディスカッション相手になってもらいましたね。同じIoTの軸で、僕はスマートホームに可能性を感じていました。
佐々木 そうそう、その時に「テレブー」を見せてくれたんだよね。
武地 「テレブー」はブタのぬいぐるみ型リモコンで、話しかけたらテレビをつけて自分に合った番組を選んでくれるっていうプロダクトでした。僕はほとんどアニメしか観ないので、わざわざリモコンのボタン押さずに音声で操作できて、しかもユーザーの趣味嗜好を勝手に学習して観たいチャンネルをつけてくれるデバイスがつくれないかなと考えたんです。そこに「話しかけたくなる」ようなキャラクター性があるともっといいなってことで「TBSハッカソン」に出したら最優秀賞を取って100万円もらえたという。当時の僕はハッカソンでなんとか生計を立ててました(笑)
佐々木 多分そこですね、僕が「武地さん、いけそう」って真剣に思ったの。光る鳥で遠距離恋愛とか街コンとか語られるより、「帰ってすぐ好きなアニメを観たいからこんな企画を出しました」という文脈でIoTを語られた方が、よっぽど「らしさ」があって面白かったんですよね。
武地 その時はまだGateboxのようなかたちではなかったんですけど、家の中のものを操作するアシスタント的なキャラクターという要素はありましたね。佐々木さんが投資にコミットしてくれたのもちょうどその頃でしたね。まだプロダクトが出来ていない段階で一緒に考えてくれて、ありがたかったです。
佐々木 とにかくめっちゃアイデアを出しましたね。
武地 空飛べたらいいなとか「どこでもドア」ほしいなとかいうレベルで、つくり方はさておき「あったらいいな」というものをとにかく色々考えてアイデアを出し合ってました。その中のひとつが「好きなキャラクターがホログラムで家に来てくれる」というもので。
佐々木 たしか初音ミクの「マジカルミライ」ライブを観た直後だったような。
武地 ああ、そうですね。「これ、ミクさん家に来てくれたら最高やな」と(笑)。
佐々木 その話をした時に「じゃあデバイスにしたらいいんじゃない」みたいな話になった気がする。僕が「いける」って感じたのは、「テレブー」の時が1回目、このミクの話が2回目なんですけど、武地さんも「あ、この方向だ」って思ったんじゃない?
武地 うん、そうですね。
佐々木 それまでずっと、いろいろなプランを考えては捨てつづけてきて。その末に「ミクだ!」っていうのは、やっぱりタイミングだったと思うんですよね。「マジカルミライ」のライブで3D映像の初音ミクに熱狂するファンの姿を見て、ソフトウェアと人間がこんなふうに関係を結べるんだ、これだけ熱狂する人たちがいるならビジネスとしてもいけるだろうと肌感で分かったし、それをプロダクトにしよう、手元に置けるようにできる起業家は武地さんしかいないって確信があった。そこに可能性を感じたんです。
武地 佐々木さんとのやり取りでありがたかったのは、どうやってAppleに勝つかとか、どうやってGoogleを倒すのかとか、ずっと高い視座で問いを投げつづけてくれたことですね。僕は当初、起業すると言っても自分が幸せになれればそれでいいぐらいに思っていたんで。
佐々木 “鳥”がうまくいかなくて相談に来てくれたときは、「何か大きいことをやりたい」と武地さん自身も言ってたんですよ。大きいって何なんだろうって考えるために、Apple、Googleのたとえを出したんだけど、Appleはブランドや世界観をお客さんと一緒につくっていく会社で、Googleはファンクショナルに人の生活を便利にしていく会社で、武地さんは多分Apple的な方向だよねと話してましたね。
武地 おかげで僕も視座を上げられたというか、「世の中を驚かせよう」というマインドが身についてきた気がします。やはり具体的な事業計画に落とし込む過程でスケールが小さくなっていきがちなので、大きいスケールのまま考えて来られたのはすごくありがたかったです。
佐々木 でも当時、ほんとにそれぐらい行けそうな気がしてたんですよ。いまも覚えてるのが、2014年12月24日につくったKeynoteのスライド。アラサー二人がクリスマス・イブに秋葉原で事業プレゼンつくったときのエネルギーというか、あれを超えるワクワク感はいまだにないですね。
武地 そうなんですか(笑)。
佐々木 別に大したスライドじゃないというか、他の人にいま見せてもこの熱は伝わらないと思うんだけど、「ココナラ」を使って500円で描いてもらった、ルンバの上に初音ミクが乗ってるイラストを見て、ほんとにすごくワクワクしたんですよ。このイラストを具現化できたらスマートフォンを超えられる発明になるかもしれない、それはAppleと同じ世界線にいくことだよね、みたいなことを楽しそうに語っていた。明らかに当時のスタートアップの文脈とは違っていたし、いま世界でこれを考えてるのは武地と佐々木しかいないと思っていたから。
武地 いやあ、ありがたいですね。
佐々木 それがGateboxの原型で、絶対にこれをつくろうと決まってから武地さんにはひたすらプロダクト開発に集中してもらった。ビジネスモデルとか一切考えなくていいから、と。「とにかく原理試作をつくろう。それまではもう金のことも考えるな」みたいな話をずっとしていた。キャッシュが尽きる6月までほかのことは考えない、やらない、と。これは日本で10本の指に入るぐらいポテンシャルのあるプロダクトだって感じたし、余計なノイズを排除することが自分の役目だと思ってた。もちろんいまもそう信じてます。
武地 目指している世界からすると、Gateboxはいまだに完成してないですからね。その後そろそろメンバー集め、採用が必要だというフェーズにも入り、初めてコンセプトムービーをつくって公開しました。そしたらめちゃくちゃバズりました、と。なので2016年がGateboxの存在を「世に出した」年になります。ピッチコンテストにも出始めて、大体オーディエンス賞は取れてましたよね。
佐々木 当時はまだモノを売れないから、ムービーやWebサイト、ストーリーの流れをどうするとかひたすら資料をつくりこんでいて。ネットで画像を検索しまくって、尋常じゃない頻度で連絡を取り合ってましたね。
武地 PRIMALから出資された起業家の中で、佐々木さんの時間を最も多く使ったのは自分だと思いますよ。僕はもともと投資家とのつながりが全然なかったし、歳も近くて気軽に相談できる相手は佐々木さんしかいなかったんです。ありがたかったですね。
佐々木 でも当時は僕も必死だったから、武地さんの場合は「投資をした」っていう感覚がないんですよね。自分でも不思議な感じがします。
佐々木 なぜ最終的にLINEと合流することを選んだんですっけ? 舛田淳さん(LINE株式会社取締役CSMO)とのつながりも偶然でしたよね。
武地 一番の決め手は、舛田さんの「Amazonを倒そう」という気概が面白いなと思ったからですかね。
佐々木 あー、会食の時に話してましたね。
武地 当時はまだLINEがAIに力を入れると発表してなかったんですが、「我々は今後AIをやっていくんです」と舛田さんが話してくれて。GAFAと戦うんだ、Amazonに勝って日本のAI市場を押さえるんだ、と。そんなことを言える日本の会社ってそうそういないですよ。そんな大きな戦に乗れるんだったら面白いなというのが一番の決め手でした。資金調達も別にやればできたとは思うんですけど、こっちのほうが断然面白いなと。
佐々木 Gateboxのようなプロダクトとビジネスを資本サイドから見ると、毎年5億、10億、20億……とお金がずっとかかっていくわけですよね。ハードウェアをつくって、AIのようなソフトウェアもつくって、アプリケーションもつくって、キャラクターの描写みたいな部分にもこだわっていくと、すべてを内製化するには相当ファイナンスが大変。しかもトラフィックもまだ出ていない状態ですからね。LINEと組むことでLINEのアセットを活用できるようになるから、独立系のファイナンスで頑張るよりやりたいことにずっと早く近づけるんじゃないかと思いました。あれは2016年の年末ごろでしたっけ。
武地 はい、年末です、12月21日ですね。
佐々木 雪の日に舛田さんが来てくれて、一緒に会って。その場での意思決定のスピード感、プロダクトに対する真剣さをひしひしと感じた記憶があります。
武地 その後佐々木さんと話して、やはりLINEと一緒にやるほうが面白いなと結論を出しましたね。M&Aの準備を超スピードで進めていった。当時はM&Aの話もあったけど社内もだいぶ大変だったし、ほんとに色々あって記憶がないです(笑)。
佐々木 さっき「投資した感覚がない」と言ったけど、武地さんとGateboxは僕のキャリアの中でもかなり特殊で「良し悪し」の評価がほんと難しい。武地さんとはすごく近い距離で一緒にやってきたけど、その関係がいいのかわからないし、再現性があるのかもわからない。起業家のプロダクトに対して投資家が思い入れをもつのはいいことではあるんだろうけれど、近すぎてよくないプレッシャーになるリスクも当然あるわけで。だから未だに、事あるごとに思い出しますよ。「ああ、あの時武地さんとはああしてたな」って、振り返って学んだり考えたり。やっぱり武地さんみたいな人ってなかなかいないですもん。芯の強さというか融通の効かなさというか。だけど、僕はそういう万人受けのしない“地下アイドル”を発掘してスターにすることが自分は好きなんでしょうね。
武地 プロデューサー冥利に尽きるってやつですね(笑)。
佐々木 だから武地さんのおかげで、だいぶ人生というか、この仕事もやりやすくなったと思ってます。2019年に完全に資本関係から離れたときに「武地さんが一番大変なときに相談に乗ってあげられる関係でいてください」って舛田さんに言われたんですよ。いまも年に2〜3回、武地さんはフラッと相談してきてくれますよね。
武地 Webサイトのデザインとか細かい文言とか、ほかの社員と話しても「武地さんに任せます」しか言われなかったりするので、佐々木さんみたいに「センス」の話ができる人ってあまりいないんですよ。めちゃくちゃこだわり強いし、美的感覚もあるし。
佐々木 ありがたいことに、それはほかの投資先起業家からも言ってもらえたりしますね。自分では全然意識してないんですけど。
武地 でも美的感覚が合うかどうかって、けっこう大事だと思います。
佐々木 僕自身はアニメをあまり見ないしアニメの話もわからないけど、「アニメが好きな人たちの世界観」に浸ることはある程度できるし、そうやって誰かの気持ちになるという行為自体が好きなんだと思う。それぞれの起業家が目指す世界観やそれをプロダクトでどう体現するかを毎回憑依して一緒につくりにいってる感じ。もちろん最終判断は起業家本人がするわけですけど。
武地 そうですね、だから対等に話せるんだと思います。
佐々木 M&Aの時も多分頭の使い方が似てたなと。お互い法務については詳しくないけど、「こういうことしたい。これはしたくない。こうはさせられたくない」みたいな話ならできる。向こう数年を考えたときに、資金や人、意思決定のプロセスはこうだから、それを踏まえて法務の文面に落とそうという。クリエイティブに関するディスカッションと似てる気がする。
武地 確かに似てますね。佐々木さんとのピッチブックづくりも印象的というか、そういう思考プロセスが反映されてると思います。スタートアップのピッチブックって、市場や課題を踏まえてソリューションを提示するのがオーソドックスな流れですけど、佐々木さんとピッチブックをつくるときに一番話したのは「未来がどうなってるか」でした。まずあるべき姿や最高の未来を描くという考え方が僕には合ってたんだと思います。佐々木さんはそこを一緒に考えられる人。そういう話ができる相手ってそんなに多くないじゃないですか。
佐々木 たとえばスティーブ・ジョブズもクレイジーだと言われるし、クリエイティブなものをつくるにはそれぐらい大それた考え方をとらないといけない気がします。僕が投資家に武地さんのことを話すときは、「テクノロジーと人間のコミュニケーションを一番考えてる人」だと言ってるんですよね。人間と人間のコミュニケーションを考える人はいるし、テクノロジーが社会にもたらすものを考える人もたくさんいるけど、「テクノロジーと人間がどうコミュニケーションを取るのか」に対して、ここまで頭を使って、最先端の技術も取り入れつづけてる人は滅多にいないんですよ。僕としてはなかなかかっこいいコピーかなって思ってるんだけど、どうですか?(笑)
武地:いいですね、かっこいい。もうこの対談記事のタイトルもそれでいきましょう(笑)