建設・土木の生産支援クラウドサービスを提供するPhotoructionは「建設の世界を限りなくスマートにする」をミッションに掲げてきた。2021年10月には資金調達ラウンドのセカンドクローズを完了させ累計21億円を調達し、同社は建設業界の新たな「当たり前」となるべくサービスを広げている。企業が成長していくなかで、起業家と投資家の関係性や役割はどう変わっていくのか。Photoruction代表取締役・中島貴春とPRIMAL CAPITAL佐々木浩史が創業期からこれまでを振り返る。
佐々木 最初の出会いは2015年の10月でしたね。
中島 「G’s ACADEMY TOKYO」のイベントですね。
佐々木 発表者で気になる人がいたら「会いたいです」と連絡できるシステムがあったので、2人だけ連絡を入れてました。そのうちの一人が中島さんです。
中島 そうですね。佐々木さんから「会いたいです」って入れていただいていたので、後日連絡してお会いしました。当時はまだ竹中工務店にいて別に起業を目指していたわけではなかったんですが、もともと大学でも「建築×IT」を研究していたし、社内でもITツールの全国展開などを担当させてもらっていたのでもっとプログラミングを学びたいと思ってG’s ACADEMYに入ったんです。
佐々木 まだ起業してないし大手に務めててっていうのは、あの場では珍しかったですね。僕はミッションが明確だけどまだスタートを切ってない人に投資させていただくんですが、中島さんはモノをつくってるのに起業していないのが気になったんですよね。
中島 佐々木さんだけではなくいくつかのVCから連絡をいただいたので、試しに色々な人に会ってみようと思っていました。最初に会った人は「会社をつくったら500万投資します」と言ってくれたんですが、よくわからないし怖かった(笑)。当時は「VC」がなんなのかもよくわかっていなかったし、「お金を出す人たち」くらいのイメージしかなかったですね。でも佐々木さんと会って話してみたら、「起業すればいいんじゃない?」ではなく「もっといいサービスにするためにお互い考えてみましょう」というテンションだったことが印象的でした。そこから定期的に会って話すようになって。
佐々木 中島さんはやりたいことが明確で進め方やつくり方を考えればよかったので、議論しやすかったですね。当時は中島さんと接してるVCがあまりいなかったので、ちゃんと考える余裕があったんです。いまはVCも増えているし投資までの意思決定もどんどん早くなっているので、事業プランを練る時間が少なくなっているかもしれません。でも当時は「SaaS」みたいな概念も使われていないし、僕自身わからないことも多くて。自分の感覚を信じられないからこそ、インキュベイトファンドのサーキットミーティングというメンタリングプログラムに参加してもらいながら一緒に資料をつくりましたね。いま思うと、事業領域への理解が浅かったからこそちゃんと話し合えた気がします。なまじ知っている事業だと考え方が既存の型にはまってしまうことも少なくないですから。
中島 オフィスもなかったのでずっとカフェで会っていて。当時ほかのVCが投資委員会に出してくれると言ってくれていたのですが、「これがやりたい」っていう意志があんまり感じられなかったんですよね。なかには先方のフレームワークにこちらの事業を入れなければいけないこともあって、ちょっと面倒だなと。でも佐々木さんは業界をどう変えるとかどう広めたいかの話が中心で、このプロダクトを世に出したいという気持ちが感じられたのが心強かったです。結局佐々木さんが「1,500万出すから」と言ってくださったので、じゃあやります、と。そこから退職を決めて会社のつくり方を教えてもらって、2~3ヶ月かけて円満退社することとなりました。佐々木さんからの投資を受けたのが2016年の5月ですね。
佐々木 ビジネスの型に合わせて事業を最適化すればいいわけではなくて、あくまでも大事なのは起業家の意志ですからね。だから中島さんのポテンシャルややりたいことを考えるための時間をちゃんとつくるようにしていた気がします。
中島 最初の頃はお金もないし全部自分たちでプロダクトをつくってましたね。UIやプライシングも150パターンくらい考えてシミュレーションを重ねていって。その後2016年の12月にIVS(Infinity Ventures Summit)に出ることになってからは、資料づくりに専念していたことを覚えています。
佐々木 資料づくりは大事でしたね。ちゃんとした資料をつくるためには起承転結や背景を考えなければいけないし、事業の軸が見えてなければいけない。最近はプロダクトベースのスタートアップも多いですが、資料ベースの立ち上げた方も有効な気もしています。まず資料をつくってからプロダクトをつくり、ユーザーや投資家のフィードバックを受けて資料をまたつくりなおすことで精度を上げていく、というか。
中島 会社が成長し未来について考える機会が増えていくと過去の資料を振り返ることも多いんですが、Photoructionは最初から言っていることがほとんど変わっていないことに気づかされます。もちろん言葉遣いや資料のクオリティはよくなっているんですが、コアの部分は変わらないし強みにもなっています。とくにPhotoructionは市場のニーズではなく僕自身がこれをやりたいという気持ちから始まったものなので、最初の資料づくりでつくった仮説がいまも生きているし、外部要因によってブレるのではなくコアを大切にすべきだなと思いました。このプロダクトをつくらないのであれば、Photoructionを続ける意味がないわけですから。
佐々木 僕自身もこの数年で少しずつ引き出しが増えてはいるんですが、Photoructionの資料はいま見てもすごくわかりやすい。BtoBビジネスのミッションの定め方やマーケットの共通化についてきちんとまとまっていて、ほかのBtoBスタートアップと話すときにも使えますから。最も核心に近い部分を最初から議論できたのは大きかったですね。最近「パーパス」や「ウィル」という言葉がトレンドになっていますが、それは事業スピードが非常に速くなっていることで根本的な目的や意志を掘り起こす時間が取りづらくなっているからなのかもしれません。もちろんとりあえず動いていくなかで目的が見えていくパターンもあるとは思うんですが、僕としては起業家の意志が強く表れているものをサポートしつづけたいなと思っています。ただ、自分でやりたいことを能動的に決められる人もいれば、他者との対話を通じて自分について知る人もいるわけで、VCの役割のひとつは起業家との対話にあるのだろうなと思います。
ただ、最近はVCも起業家も増えているので「toCならこれ」「BtoBはこれ」と事業がパターン化しやすくなっている。その知識を提供することがVCの仕事だと思われることもあるんですが、やはり起業家自身と向き合わないといけないんですよね。
中島 過去を振り返ると、僕も何度かパターンやフレームに囚われていましたね。そういう時期は大抵佐々木さんと険悪になるんですよ。とくに2018年頃は夢を語れる人がどんどん資金調達できるような時代だったので、僕も中身を深く考えずフレームワークに当てはめて事業を考えてしまうようになっていて。
佐々木 めちゃめちゃ険悪でしたね(笑)。
中島 「話す必要性がわかりません」「用があるときだけ連絡します」とか、別れる前のカップルみたいなことを言っていた(笑)。でも精神的に余裕がなくなると、些細なことも気になってしまう。VCの「主な投資先」みたいなリストに自分の会社が載っていないと不安になってくるし、どうにかして成長するために既存のフレームワークに頼ってしまうという。
佐々木 わかりやすいものに飛びついてしまうんですよね。そこで僕が「いまこのレベルの管理ができてないのにこんなモデル使えるわけないじゃん」と冷静に突き返すから、さらに険悪になってしまうという(笑)。
中島 起業家とVCの利害は本来一致しているはずなのに、対立していると思ってしまうようになる。精神的に参ってくるとつい自分が否定されているような気になってしまうんですが、佐々木さんは人ではなくアウトプットやプロセスについて言及してるんですよね。それがわかってからは自然に批判を受け入れられるようになりました。実際にほかの起業家と話していても、VCとのコミュニケーションで悩んでいる人は多い気がします。概して上司と部下みたいな関係性になってしまうしVCが起業家を潰したという話になりやすいのですが、起業家のコミュニケーションに問題があることも少なくないのかな、と。お互いにいいものをつくろうとしているんだから、たとえ途中で意見が対立しても、コミュニケーションを放棄してはいけないわけで。
佐々木 自分が知らないことや別の考え方を知るために他人と話すわけであって、議論が生まれないならふたりで話す意味もないですからね。
中島 佐々木さんと話すなかで、僕はひとつの答えを決める会話ではなく色々な選択肢や未知の事柄に気づかせてくれるコミュニケーションをたくさんとった方がいいタイプなのだと気づかされました。とくに起業家の「意志」って答えがあるわけではないですからね。ひとつのテーマに対して佐々木さんから色々なアイデアを出してもらう方が成果の出るコミュニケーションになりやすい。
佐々木 そうですね。起業家が見えていないことや見ようとしていないこと、見落としがちなことを積極的に伝えるよう意識しています。起業家とVCでは日頃接している情報の種類も変わりますからね。
佐々木 事業のフェーズが変わっていく際に起業家とVCのズレが生じることもありそうです。たとえばPhotoructionもこの1~2年で資金調達も進んでいて、VCとして議論の内容や提供するものを変えていかなければいけないなと感じています。当たり前ですが起業する前と起業直後、プロダクトをつくるとき、営業に注力するときなど、状況によってやることは変わっていくわけで。これまではシードやシリーズAなどスタートアップのステージごとにVCの役割が分かれていて、バトンタッチするようにして移り変わっていくものだと思われていましたが、近年は大きなファンドがシード期の企業に投資することも増えていますし、ひとつの企業に長く伴走することが増えてきていることもあり事業成長の過程で起業家とVCのお互いに対する期待値にずれが生じやすくなっているのかもしれません。たとえば僕たちもここ数年は主に資金使途やROIについて議論していて、プロダクトや個人ではなく組織づくりについて話す機会が増えましたよね。
中島 そうですね。もっとチームの強みを出すために社内コミュニケーションに気を配るようになりましたし、外部への発信にも注力しています。佐々木さんからずっと言われていたコーポレートロゴの刷新もそのひとつです。結果として自信をもってプロダクトを打ち出せるようになったし、業界関係者や外部の方から見られる機会も増えてきた。チームづくりの面でも、いいタレントが集まるようになってきたと思います。たしかに事業のフェーズによって投資家とのコミュニケーションは変わるものですが、佐々木さんの場合は一貫して大きな目的を達成するためにいま何かをすべきかについて語っているように思います。あれをやれ・これをやれではなく、なぜできていないのか、考え方から共有しながらブラッシュアップできる場をつくってくれる投資家はあまりいない気がしますね。
佐々木 シード期から投資しているからこそ、大きなビジョンについて考えつづけられるのかもしれません。もしプレIPOやグロースステージで投資するVCだったら、いまからファンドのリターンを考えなければいけないわけで、どうしても経済合理性に沿った判断が求められてしまう。シードVCの観点から見ればある意味Photoructionに対する投資はもう成功しているので、もっと大きなビジョンについて議論できるというか。シード期から投資しているからこそ、ピュアなコミュニケーションが可能になるわけです。
佐々木 だから僕からすると、小さな経済合理性の話にとどまるのではなく、もっともっと魅力的な会社になったりよりよい事業を生み出したりしてほしいんですよね。「建設の世界を限りなくスマートにする」という中島さんのミッションはすごく壮大だし、一貫してその意志に可能性を感じているわけですから。
中島 そうですね。建設業界はまだ「3K(きつい・危険・汚い)」と思われていますし、産業のイメージそのものを変えなければいけません。そのためにも、建築をつくる技術そのものをつくっていく必要性を感じています。建築のつくり方や素材のあり方が変わっていくなかで、Photoructionが必要不可欠なテクノロジーと言われるところまで成長したいな、と。
佐々木 そんな状況を実現するのはけっこう大変だと思うんですが、中島さんはどんなときに成長を実感したり喜びを感じたりするんですか?
中島 もちろんユーザーさんが増えることや直接お会いして喜びの声を聞けることは嬉しいんですが、ホッとするという感覚が近いかもしれません。最近、何があったら嬉しいと思えるか考えてみたんですが、建造中の建物の中で開かれる焼肉大会に呼ばれたり、その建物から花火を見る会に呼ばれたりしたらかなり嬉しい気がします。そういう場に呼ばれたらPhotoructionが「建設業」として認められているってことだと思うんです。それはすごく小さな野望かもしれないんですけど(笑)。
佐々木 小さいですね(笑)。
中島 でも、職人さんたちと対等な仲間として見られるってことですからね。これまで「仲間」として捉えられてきたのって専門職の方々や現場で使われている技術をつくっている会社で、ITベンダーはあくまでも「ツール」として見られている気もします。だからPhotoructionが建設業に必要不可欠なテクノロジーになることは、竣工式やテープカットの場に僕たちが呼ばれるようになることでもあるんですよ。別に既存の業界をぶち壊したいわけではなくて、少しずつ役に立ちながら気づいたらすべての建物にPhotoructionが使われているような状況をつくりたくて。
佐々木 あとから振り返ってみたらいつの間にかディスラプションが起きていた、みたいな。
中島 そうですね。僕はAWSがすごく好きなんですけど、あれって最初はメッセージを送るサービスくらいしかなかったんですよね。それがいまやインフラそのものを担うような存在になっているのが格好いいなと思うんです。いまPhotoructionも色々な機能を提供しているんですが、規模や職種によって刺さる機能も異なるので、単体で使えるようなものを増やしつつ、気づいたらそこにすべての機能が集約されていてずっとPhotoructionを使っているような流れを生み出したいんです。
佐々木 いまやインフラエンジニアと言えば多くの人がAWSのエンジニアを想起しますしね。「日本人はご飯食べるとき普通はお箸使うよね」「普通はスープ飲むならスプーンと器使うよね」みたいな感じで。
中島 そう、「普通」とか「当たり前」になりたいんです。
佐々木 他方で、建設や住宅といった産業全体で見れば、当たり前ですがPhotoructionってまだまだ規模が小さい存在ですよね。社会を変えていくためには企業として継続性がなければいけないし、ビジネスの規模も大きくしなければ自立性は生まれないと思うんです。
中島 そうですね。言わばいまは投資されたお金によって生かされているような状態ですし。
佐々木 だからこそ、Photoructionがこの先20年、30年と事業を続けていくうえで、産業や社会がどう変化していくのか常に考えていく必要があると思います。それは本来の意味での「ビジョン」を描くことでもある。ビジョンが描かれることで、そこに向けて事業を継続させるために必要な組織の規模や組織をハンドリングする代表の能力も問われていくわけで。スタートアップのコミュニティにいるとしばしばスタートアップ業界の規模感に囚われてしまうこともありますが、ちゃんと大きなビジョンを鮮明に描いていきたいですね。
中島 たとえばPhotoructionがアジア圏のデファクトスタンダードになったらどんな世界になるのか創造する、みたいな。30年先の世界を具体的に想像すると、いま・ここの楽しさだけではなくて、もっと事業を大きくするための熱量も生まれそうですよね。
佐々木 そういう企業になると思ってるんです。ビルや一戸建て、マンションなど、コストの問題で建て替えられないから誤魔化しながら使っていたような建物が、Photoructionを使えば簡単に建て替えられるとなれば、人間の居住空間って劇的に変わりますからね。いまGAFAのようなテックジャイアントがときに規制の対象となったりするように、規制がかかるレベルまで大きくなっていくことを想像したい。
中島 社会が無視できないレベルの存在になるってことですよね。
佐々木 いまはそこまで大きな仕事をしているわけじゃないけれど、そういうロマンのサイズをもっていたほうがいいのかな、と。僕は外からガヤを飛ばしてるだけとも言えるんですが、大きな期待を提示することは僕の役割のひとつでもある気がしています。もちろんビジョンが大きければ大きいほど達成感を得にくいし経営者はつらい戦いが続くと思うんですけど、他方で達成感を得たら「引退」でもある。人間の住環境を変えるという意味では中島さんは80億人の生活を背負ってるわけですから、一生達成感を得られないかもしれない(笑)。
中島 建設業って家をつくるだけではないし、人の移動を可能にする道路もつくるし、ダムのようなインフラもあれば、いま着ている服や食べているものをつくる工場も建てているわけで、衣食住のすべてにつながっていますからね。人間が生きていくうえで欠かせないものに関わる事業をつくっている意識はあります。だからあらゆる建設業で当たり前に使われるようになった時、たとえば僕たちのプロダクトに不具合が起きてコンクリートが打てなくなったらすごく大きな経済的損失が生まれるかもしれないし、検査した結果が間違っていたら基準を満たさない建物ができて人の生命を奪う事故につながるかもしれない。そういう責任感は徐々に広がっていくと思っています。
佐々木 たしかに食品工場や自動車工場って数十億~数千億円の建設費用がかかるわけで、そのコストが数分の一になったらそこでつくられる製品の価格も下がっていくし、みんながさまざまなシーンでいまよりもいいサービスを享受できるようになるかもしれない。いまとはまったく異なる世界になりますよね。経営者はそれだけ強い思いを一生背負い続けられるかどうかが問われているとも言える。
中島 現時点で80億人の生活を背負っている実感はないんですが、事業の大きさと個人の責任感がリンクしながら成長していくと企業としても強くなっていける気がします。だからこそ、経営者や起業家が情熱を失ったら企業の成長も止まってしまうんでしょうね。日本の建設業でシェアを獲得したから企業として安泰だと思ってしまったら、1億3千万の生活しか背負えない。もちろんそれだけでもすごいわけですが、僕自身はもっと大きなビジョンをもっていますし、いまは無理でも、成長しつづければ80億人の生活を背負えるような存在になっていけると信じています。